スパイとは
スパイ:外国と通じて国益を害する者
スパイ活動:外国の利益のため、不正な手段を用いて情報収集し又は我が国に悪影響を及ぼす活動
スパイ活動は以下の3種類に区分されます。
諜報:安全保障に影響する秘密情報を取得するための活動
宣伝:投票や国等の政策決定に不当な影響を及ぼす活動
謀略:政権操作や転覆などを目的ときた秘密工作やその支援
なぜスパイ防止法が必要か
前述の通り、スパイ活動は、外国の利益のため、不正な手段を用いて情報収集し又は我が国に悪影響を及ぼす活動であり、そのような我が国を裏切り国益を害するものがいては国を守れません。外国と通じて国益を害する者を排除するため、スパイ防止法の制定は急務です。
スパイ防止法の歴史
かつては存在した”スパイ防止法”
1947年までは刑法85条に「間諜罪」1(外患に関する罪)が制定されていましたが、GHQにより廃止。当時の政府委員による提案理由説明によれば「戦争の放棄等を定めた日本国憲法の趣旨に適合するように戦争状態の発生等を前提とする刑法の諸規定を改めた」(11.20参議院法務委員会における安達委員の質疑に対する平口大臣の答弁2による)とのことですが、我が国が戦争放棄をしたからといって他国が情報戦を仕掛けることをやめるはずがありません。
改正前の間諜罪の規定は以下の通りです。
第八十五条第一項
敵国ノ為メニ間諜ヲ為シ又ハ敵国ノ間諜ヲ幇助シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ五年以上ノ懲役ニ処ス第二項
軍事上ノ機密ヲ敵国ニ漏泄シタル者亦同シ
(現代語訳)
第85条第1項
敵国のために間諜を行った者又は敵国の間諜を助けた者は、死刑又は無期懲役もしくは5年以上の有期懲役に処する。
第2項
軍事上の機密を敵国に漏らした者も、前項と同様に処罰する。
自民党が法案提出
1985年6月6日に自民党所属議員は衆議院に議員立法としてスパイ行為を処罰する法律案「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(第百二回国会 衆法第三〇号)を提出しました。
国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案
(目的)
第1条 この法律は、外国のために国家秘密を探知し、又は収集し、これを外国に通報する等のスパイ行為等を防止することにより、我が国の安全に資することを目的とする。(定義)
第2条 この法律において「国家秘密」とは、防衛及び外交に関する別表に掲げる事項並びにこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ、公になっていないものをいう。(国家秘密保護上の措置)
第3条 国家秘密を取り扱う国の行政機関の長は、政令で定めるところにより、国家秘密について、標記を付し、関係者に通知する等国家秘密の保護上必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の措置を講ずるに当たり、国家秘密を取り扱う国の行政機関の長は、国家秘密を国の行政機関以外の者に取り扱わせる場合には、これを取り扱う者に対し国家秘密であることを周知させるための特別な配慮をしなければならない。(罰則)
第4条 次の各号の一に該当する者は、死刑又は無期懲役に処する。
1 外国(外国のために行動する者を含む。以下この条、次条及び第6条において同じ。)に通報する目的をもって、又は不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの第5条 次の各号の一に該当する者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
1 外国に通報する目的をもって、又は不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報したもの
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を外国に通報したもの
3 前項第1号又は第2号に該当する者を除き、国家秘密を外国に通報して、我が国の安全を著しく害する危険を生じさせたもの第6条 次の各号の一に該当する者は、2年以上の有期懲役に処する。
1 外国に通報する目的をもって、国家秘密を探知し、又は収集した者
2 前項第1号又は第2号に該当する者を除き、国家秘密を外国に通報したもの第7条 次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
1 不当な方法で、国家秘密を探知し、又は収集した者
2 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を他人に漏らしたもの第8条 前項第2号に該当する者を除き、国家秘密を他人に漏らした者は、5年以下の懲役に処する。
第9条 第5条(同第3項に係る部分を除く。)及び前3条の未遂罪は、罰する。
第10条 国家秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した国家秘密を過失により他人に漏らした者は、2年以下の禁錮又は20万円以下の罰金に処する。
2 前項に該当する者を除き、業務により知得し、又は領有した国家秘密を過失により他人に漏らした者は、1年以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処する。第11条 第5条(同条第3号に係る部分を除く。)の罪の予備又は陰謀をした者は、10年以下の懲役に処する。
2 第6条の罪の予備又は陰謀をした者は、7年以下の懲役に処する。
3 第7条の罪の陰謀をした者は、5年以下の懲役に処する。
4 第8条の罪の陰謀をした者は、3年以下の懲役に処する。
5 第5条(同条第3号に係る部分を除く。)の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第1項と同様とし、第6条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第2項と同様とし、第7条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、第3項と同様とし、第8条の罪を犯すことを教唆し、又は扇動した者は、前項と同様とする。
6 前項の規定は、教唆された者が教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法(明治40年法律第45号)総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。(自首減免)
第12条 第6条第1号、第7条第1号、第9条又は前条第1項から第4項までの罪を犯した者が自首したときは、その刑を軽減し、又は免除する。(国外犯)
第13条 第4条から第10条まで及び第11条第1項から第5項までの罪は、刑法第2条の例に従う。(この法律の解釈適用)
第14条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない。附則この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。別表(第2条関係)
1 防衛のための体制等に関する事項
イ 防衛のための体制、能力若しくは行動に関する構想、方針若しくは計画又はその実行の状況
ロ 自衛隊の部隊の編成又は装備
ハ 自衛隊の部隊の任務、配備、行動又は教育訓練
ニ 自衛隊の施設の構造、性能又は強度
ホ 自衛隊に部隊の輸送、通信の内容または暗号
ヘ 防衛上必要な外国に関する情報2 自衛隊の任務の遂行に必要な装備品及び資材に関する事項
イ 艦船、航空機、武器、弾薬、通信機材、電波機材その他の装備品及び資材(以下「装備品等」という。)の構造、性能若しくは製作、保管若しくは修理に関する技術、使用の方法又は品名及び数量
ロ 装備品等の研究開発若しくは実験計画、その実施の状況又はその成果3 外交に関する事項
イ 外交上の方針
ロ 外交交渉の内容
ハ 外交上必要な外国に関する情報
ニ 外交上の通信に用いる暗号
一度は自民党や新自由クラブなどの賛成多数により継続審議となったものの、続く第103回国会での衆議院内閣委員会理事会は法案を審議未了のまま廃案としました。
自民党案廃案後の動向
2013年には特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)が成立しましたが、機密情報を盗まれる前にその情報を特定秘密として指定していなかった場合に適用することはできず、また、刑罰も「10年以下の懲役」と非常に軽い量刑であることが問題です。
2024年には重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(令和6年法律第27号)が成立しましたが、広範でのスパイ行為全体を規制するものではありません。
2025年10月20日に自民党と日本維新の会の二党間で交わされた「自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書」には「インテリジエンス・スパイ防止関連法制(基本法、外国人代理人登録法及びロビー活動公開法等)について令和七年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる。」と記載されており、自維政権がスパイ防止法制定に前向きな姿勢を示しています。
2025年11月25日、参政党は議員立法として「特定秘密の保護に関する法律及び重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の一部を改正する法律案3」および「防諜に関する施策の推進に関する法律案4」を参議院事務総長に発議しました。
https://sanseito.jp/news/n6108/
「特定秘密の保護に関する法律及び重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の一部を改正する法律案」は、特定秘密の取扱い及び重要経済安保情報の取扱いに関する詳細な罰則規定等が示されています。
「防諜に関する施策の推進に関する法律案」については、政府に防諜の体制を構築することを促すプログラム法案であり、
・「防諜」の定義
・基本的人権及び知る権利への配慮
・諜報の実施及び援助の禁止
・防諜に関する教育及び啓発の推進
・日本版FARAの導入
・内閣情報調査局の設置 等
が示されています。


国際標準(先進国並)の包括的スパイ防止法の制定を
6つの「ない」を無くし、外国による不当な影響力から我が国の主権と自由を守る
対外国勢力
サボタージュ罪/外国干渉罪がない
→準備段階の進入/証拠隠滅のための破壊行為が裁けない
⇨罰則規定の設置(防諜施策推進法第2条、同法第4第17条、特定秘密保護法・重要経済安保情報保護活用法(一部改正案)第24条の3第1項)
日本版FARA(外国代理人登録制度)がない
→外国による世論の影響工作に対抗する仕組みがない
⇨本制度の導入及び開示の実施(防諜施策推進法(案)第16条)
対政府
政府三役へのセキュリティクリアランスがない
→重大な情報を共有できず国益を損なう可能性
⇨セキュリテティクリアランスの実施対象を政務三役へ範囲拡大(特定秘密保護法・重要経済安保情報保護活用法(一部改正案)附則第4条)
統合的な対外防諜機関がない
→防諜・情報活動の最終責任者が不在で影響工作に対抗できない
⇨現行の内閣情報調査室を内閣情報調査局に格上げし、また、対外情報庁を設置(防諜施策推進法(案)第18条)
対国民
国民への防諜教育・リテラシーがない
→官民が連携し国民一体で外国への防諜体制を敷くことができない
⇨防諜に関する教育・啓発の推進を規定(防諜施策推進法(案)第12条)
政府への監視がない
→権力の濫用にブレーキをかけ、健全な運用を確認する手段がない
⇨権力の恣意的な運用を外部監視と国会報告で牽制し国民の権利を保護(防諜施策推進法(案)第11条、同法(案)第19条)
スパイ防止法制定の意義
・スパイ活動の非合法化・罰則強化により「スパイ天国」解消を国内外に宣言
・透明化制度や対外情報機関創設により、外国の影響力工作阻止や海外情報収集の促進
・国民への防諜教育により情報リテラシーを推進し、対情報戦への国まもりの実力を養う
⇨国民を我が国をまもる当事者として育み、真の独立心へ導く
終わりに
「防諜」は特定秘密や重要経済安保情報を取扱うものだけが注意すれば良いのではなく、国民全体が対情報戦に対する意識を高めなければいけません。
1941年には内務省が日本国民に向けて「防諜講演資料」を頒布し、外国の諜報活動や情報工作に対する警戒意識を高め、機密情報の漏洩防止を図っていましたが、今はありません。
よって、今般提出した「防諜施策推進法案」にもある通り、国民への防諜に関する教育及び啓発の推進を徹底して行うべきです。
戦争の入り口は情報戦です。
情報戦で負けたら経済戦では敗れ、実戦でも内部に潜り込まれて敗れます。
国旗損壊罪の制定と同様に今般の法案の審議過程も大注目ですので、今後の院内情勢を注視してまいりたいです。
- 間諜とは、密かに対立する国や組織の領域に侵入し、その秘密や動向を探り、自国や自組織に報告する者、またはその行為を指す語であり、現代の「スパイ」とほぼ同義である。 ↩︎
- https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.phpを参照 ↩︎
- 特定秘密の保護に関する法律及び重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の一部を改正する法律(案)
https://sanseito.jp/nppoj/wp-content/uploads/01%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%B3%95%E6%9D%A1%E6%96%87-1.pdf
特定秘密の保護に関する法律及び重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の一部を改正する法律案新旧対照表
https://sanseito.jp/nppoj/wp-content/uploads/02%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%B3%95%E6%96%B0%E6%97%A7.pdf
特定秘密の保護に関する法律及び重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律の一部を改正する法律案要綱
https://sanseito.jp/nppoj/wp-content/uploads/03%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%B3%95%E8%A6%81%E7%B6%B1.pdf ↩︎ - 防諜に関する施策の推進に関する法律(案)
https://sanseito.jp/nppoj/wp-content/uploads/04%E6%8E%A8%E9%80%B2%E6%B3%95%E6%9D%A1%E6%96%87.pdf
防諜に関する施策の推進に関する法律案要綱
https://sanseito.jp/nppoj/wp-content/uploads/05%E6%8E%A8%E9%80%B2%E6%B3%95%E8%A6%81%E7%B6%B1.pdf ↩︎
